VVVFインバーターの作り方
VVVFインバータを自作して小型電車を制御するには
三相誘導モーターを可変速駆動するため、三相交流の電圧と周波数を自在に調整できる装置「VVVFインバーター」を製作する方法を紹介します。別の記事で取り上げたワンハンドル型マスコンと組み合わせて、運転士のハンドル操作によりVVVFインバータに制御指令を与え、滑らかな加減速性能を実現できます。プログラムを工夫すれば、ドレミファインバータのように独特な音をモーターから鳴らせます。
当記事でご紹介する回路の詳細なレシピは、技術同人誌「ゼロから作るVVVFインバータ制御電車」にまとめてあります。
こちらの本では、個人でVVVFインバータを搭載した電車を自作する際に必要となる、電気回路、制御プログラム、駆動機構について幅広くまとめてあり、主要部品のリストも収録しています。
電車を自作してみたい工作派の方は、ぜひチェックしてみてください。
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VVVFインバータ内部の回路構成はどうなっているか?
まず、VVVFインバータを使用した交流モーター制御システムの構成について説明します。
このように、直流電源に接続された三相インバータにより、三相交流を生成して交流モーターを回転させます。直流電源は、実物の電車では架線とレールに相当します。電車や電気自動車のモーターのように回転速度の領域が広く、電流制御やトルク制御が必要な場合、センサーから得られる電流値やモーターの角速度情報などを用いて、三相交流の電圧振幅や周波数を調整(可変電圧可変周波数制御=VVVF制御)する必要があります。電圧や周波数を調整するために使用する制御器には、マイコンなどを使用します。
制御器は、センサーから取得した情報をもとに三相インバーターの出力電圧や周波数などを計算し、インバータのゲート駆動信号を生成します。ゲート駆動信号はゲートドライブ回路を介して、三相インバータを構成するパワー半導体素子に伝達されるようになっており、ゲート駆動信号をもとにパワー半導体素子が高速にON/OFFの切り替えを行うことで三相交流を生成します。
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次に、自作する5インチゲージ向けVVVFインバータ制御システムの機器構成を示します。
5インチゲージ電車を駆動する電源には、汎用の鉛蓄電池(電圧12V)を使用します。ただし、5インチゲージ用の主電動機として用いる三相誘導モーターの定格電圧は200Vなので、鉛蓄電池の出力電圧を昇圧して三相インバータに供給する必要があります。昇圧には、12Vのバッテリー出力をAC100Vの疑似正弦波に変換する車載用インバータ(市販品)を使用し、自作のコンバータを用いて整流・平滑化することで、141V程度のDCリンク電圧を得ます。
VVVFインバータ装置は、三相ブリッジ回路・ゲートドライバ・制御基板から構成され、ロータリーエンコーダから得られる速度情報とマスコンハンドルから与えられる指令値をもとにVVVF制御を行い、三相交流を三相誘導モータに供給します。
VVVFインバータの頭脳部にはPICマイコンを採用
まず、VVVFインバータの制御基板を製作します。制御回路はモータ制御を行うための頭脳に相当する部分で、電車の走行状況やマスコンハンドルの指令をもとにパルス信号を出力し、モータに印加する電圧や周波数を調整します。
制御用のマイコンには、モータ制御に適したPWMモジュールを搭載するPICマイコン「dsPIC30F4012」を採用してみました。ピン数が28と少なめでピンアサインには気を遣いましたが、2レベルインバータを制御するには十分です。
前述したように、制御基板はゲートドライバやマスコンなどの外部機器と接続して使用するので、信号のやりとりに必要となるコネクタやピンソケットが並んでいます。
VVVF音を気軽に再現するための工夫
制御基板に載っているPICマイコンにプログラムを書き込む際には、pickitやMPLAB ICDなどの書き込み機を介して開発用PCと接続する必要があります。
VVVFインバータで色々な車両の音を再現して遊ぶには、基板に書き込み機を接続して気軽にプログラムの変更やデバッグを行えると便利です。
管理人の環境ではプログラムの書き込みにMPLAB ICD3を使用するため、ICD3の仕様に合わせてLANコネクタを設置しています。
部品のはんだ付けとスズメッキ線での配線作業を行い、制御基板が完成しました。
VVVFインバータ制御回路で単純な音を鳴らしてみた
完成した制御基板上のマイコンにプログラミングを行い、東京メトロ01系・東京メトロ02系の高周波分巻チョッパ装置と同じキャリア変調パターンでスイッチングしてみました。ゲートパルス信号を圧電ブザーに接続して磁歪音を鳴らしています。実際には三相交流を生成する信号が出力されています。
【元動画はこちら】東京メトロ01系の変調パターンを作ってみた
こちらでは、東京メトロ03系・東京メトロ05系の高周波分巻チョッパ装置と同じキャリア変調パターンでスイッチングしてみました。
【元動画はこちら】東京メトロ03系・05系の変調パターンを作ってみた
東武20000系・東武9000系のAFE主回路チョッパ装置と同じキャリア変調パターンでスイッチングしてみました。
【元動画はこちら】 東武20000系・9000系の変調パターンを作ってみた
VVVFインバータの制御信号をIGBTに送るゲートドライバの作り方
制御基板上のマイコンが出力する三相インバータのゲート信号を、実際にIGBTを駆動できるレベルに変換する、ゲートドライブ回路を製作します。
ここでは、ゲートドライブ回路について簡単な説明に留めておきますが、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
製作した制御回路とゲートドライブ回路、IGBTモジュールを機器箱に取り付けます。
VVVFインバータ装置背面には、このようにパワー回路の端子が並んでいます。赤と黒の端子は直流電源の入力端子で、DC141Vが入力されます。
黄色・緑色・水色の端子は三相交流の出力端子です。これら3つの端子を三相誘導モータに接続することで電気を供給し、可変電圧・可変周波数制御を行います。
三相誘導モーターや直流電源装置と接続した状態がこちらです。今後は発電ブレーキやフィードバック制御に必要となる、回生用抵抗などの装置類を追加していきます。